犬のアトピー性皮膚炎(Canine Atopic Dermatitis)が近年増加傾向にあるようです。
犬だって痒いのはつらい。
それを見る側も何とかしてあげたいと感じ、つらいですよね。。。
メカニズム解明のさまざまな研究があるなか、
近年、腸管免疫バランスの乱れが関係していて、腸内環境改善へのアプローチが使えるんじゃないか?という研究論文を見つけました。
“川野浩志,乳酸菌マッチング検査に基づく犬アトピー性皮膚炎に対する細菌療法,ペット栄養学会誌,2022 年 25 巻 2 号 p. 111-113”
そこで今回は、腸内環境アプローチが犬のアトピー性皮膚炎にもたらす効果について分かりやすくまとめたいと思います。
犬のアトピー性皮膚炎とは?
アレルゲンに対してアレルギー症状を起こし、免疫反応が過剰になることで生じる皮膚炎です。
原因はダニや花粉など季節性のものや、ホコリやカビなど環境中にあるものなどさまざまです。
柴犬やウエスト・ハイランド・ホワイトテリア、フレンチブルドッグなど遺伝的な要因で起こりやすいといわれている犬種もあります。
症状は主として痒み。
耳、脇、股、足先、口の周りなど舐めたり痒がったりしていませんか?
掻くことで皮膚の赤み、発疹や脱毛、皮膚が傷つき細菌による二次感染で症状が悪化することもあります。
超大事!腸と免疫を徹底解説!
腸は食べ物を消化吸収する場でもありますが、同時に多くの免疫細胞も存在します。
口から入った食べ物には、たくさんの雑菌やウイルスが付着しているので、消化吸収を行う腸に免疫細胞が集まっていても不思議ではありません。
腸はウイルスや雑菌など招かれざる客の侵入を防ぎ、また侵入された場合の対処に備えているのです。
今回の論文では、
“Th1細胞とTh2細胞のバランスがTh2細胞優勢の免疫状態へシフトすることで、血中においてTh2細胞由来のサイトカインが増加する報告がある”
と記されています。
Th1細胞とTh2細胞
どちらも免疫に関わるヘルパーT細胞で、体内に侵入した抗原によって働きが変わります。
Th1細胞は、細菌やウイルスが入るとサイトカイン(IFN-γ)という物質を分泌し、B細胞へ抗体を作るよう指令を出す細胞です。
他にもキラーT細胞やマクロファージなど細胞を活性化させたり、細菌やウイルスを食べたり破壊します。
Th2細胞は、花粉やダニ、ホコリなどのアレルゲン担当です。
アレルゲンに反応し、サイトカイン(IL-4など)を分泌し、B細胞を活性化させて抗体を作ります。
IFN-γとIL-4はお互いの働きを抑制し合うように働くため、Th2細胞が過剰になりバランスが崩れるとアレルギー症状が起こるということです。
つまり腸内細菌叢のディスバオイシス※1によりアレルギー発症や進行が起こり、腸内免疫のTh1細胞とTh2細胞のバランスに不均衡が起きているということですね!
犬のアトピー性皮膚炎といえば、ステロイドなどの抗炎症、抗掻痒薬、抗菌剤など選択されますが、一方でプロバイオティクス、プレバイオティクスなど腸内細菌のバランスを整えることで改善効果が報告されている例もあるようです。
※1特定の病原性細菌が腸内細菌叢のバランスを変化させ炎症を引き起こすこと
腸内環境を整えるプロバイオティクス、プレバイオティクス
プロバイオティクスとは、有用菌をそのまま摂取すること
プレバイオティクスとは、腸内の有用菌を増やすこと、つまり菌のエサ
犬の腸内環境にエビデンスのあるプロバイオティクスには以下のようなものがあります。
・ラクチバチルス プランタルム(Lactobacillus plantarum):漬物などの発酵食品
・ラクチバチルス カゼイ(Lactobacillus casei):主に酪農製品
・ビフィドバクテリウム ブレーべ(Bifidobacterium breve):ビフィズス菌
・スプレプトコッカスサーモフィルス(Streptococcus thermophilus):主に酪農製品
これらを配合したプロバイオティクスは犬の炎症性腸炎など改善の報告があるといわれています。
また、プレバイオティクスとして犬に1ケストース※2を経口摂取したところ、有用菌であるビフィズス菌や短鎖脂肪酸である酪酸の増加。
一方、フソバクテリウム属菌やウェルシュ菌など減少した報告があります。
※2ショ糖のフルクトースにスクロースがβ-1,1-グリコシド結合したもので、スクロースとフルクトースからなるプレバイオティクス
犬に有用なシンバイオティクス
シンバイオティクスとは、効果を高めるためプロバイオティクスとプレバイオティクスを一緒に一緒に摂ることをいいます。
シンバイオティクス=プロバイオティクス+プレバイオティクス
例えば、「ヨーグルトにオリゴ糖をかけて食べる」「味噌汁にきのこを入れて飲む」も日常にあるシンバイオティクスです。
今回の論文では、シンバイオティクスとしてプレバイオティクスを1ケストースとし、6種類のプロバイオティクスで乳酸菌マッチングテストを行いました。
その結果、6種類のうちラクトバチルスカゼイが過剰になりがちなTh2細胞の活性化を抑制し、犬のアトピー性皮膚炎において96%の改善効果が見られ、そのうち13%は免疫抑制剤の使用がほぼ不要となったようです。
腸活侮るなかれですね。
まとめ
・犬のアトピー性皮膚炎には、腸内環境を通した免疫バランスの調整が必要
・犬に適切なシンバイオティクスには一定の効果が期待できる
・腸内環境改善は動物においても脱医薬的治療に前進する
腸内細菌の形成パターンは個体差があるので、何が合うのかは実際のところ摂ってみないと分からないところもありますが、
犬もまずは腸内環境を整えること
人の分子栄養学においては基本のきでありますが、犬で検証され、解明されつつあるという事実に動物医療の前進を感じるばかりです。
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