ここ数年、「グレインフリー(穀物不使用)」という言葉をよく見かけるようになりました。
小麦やトウモロコシを使わず、肉や豆類を中心にしたフードは「消化によい」「アレルギーに安心」として人気です。
一方で、「グレインフリーフードと心疾患(特に拡張型心筋症)」の関係が疑われているというニュースを耳にした方も多いでしょう。

この記事では、科学的な背景と現時点での見解をわかりやすく解説します。
グレインフリーフードとは?
「グレインフリー(Grain Free)」とは、文字通り穀物を使用していないフードのことです。
一般的なドッグフードには、小麦・トウモロコシ・米・大麦などの穀類が炭水化物源として使われていますが、
グレインフリーでは代わりに、以下のような食材が使われます。
• じゃがいも、サツマイモ
• エンドウ豆
• レンズ豆
• ひよこ豆
• タピオカ、キャッサバ
これらは「グルテンフリー(gluten-free)」でもあるため、穀物アレルギーやグルテン過敏を持つ犬に配慮した選択肢として広まりました。
問題提起のきっかけになったのはFDAの発表
2018年、アメリカのFDA(食品医薬品局)は、特定のグレインフリーフードを食べていた犬に拡張型心筋症(DCM)が多発しているとの報告を受け、調査を開始しました。
報告された多くのフードには、共通して次のような特徴がありました。
• 穀物の代わりに「豆類(特にエンドウ豆・レンズ豆)」が多く使用されている
• タウリン(アミノ酸の一種)の欠乏または吸収阻害が疑われる
• 一部では特定の犬種以外(例:ゴールデン・レトリバー以外)でもDCMが発症
この発表により、「グレインフリー=危険なのでは?」という不安が世界中に広がりました。
何が問題なのか?タウリンとの関係
心疾患の中でも「拡張型心筋症(Dilated Cardiomyopathy, DCM)」は、心臓の筋肉が薄くなり、拡張してしまう病気です。
犬では一部の大型犬(ドーベルマン、グレートデーンなど)に遺伝的に多い疾患ですが、最近では食事性タウリン欠乏が関与する「二次性拡張型心筋症」も注目されています。
タウリンは心臓の収縮や細胞の安定に欠かせない栄養素。
体内でシステインとメチオニンから合成されますが、以下のような条件で不足しやすくなります。
• 原料に豆類(エンドウ豆・レンズ豆など)が多く、硫黄アミノ酸が少ない
• 食物繊維が多すぎてタウリンやアミノ酸の吸収を妨げる
• 加熱・加工によるアミノ酸の損失
• タウリン添加がおこなわれていないフード



つまり、穀物を抜いたことより、穀物の代わりに何を使ったか・栄養バランスがどう変化したかが問題の本質です。


グレインフリー=危険ではない
ここで整理しておきたいのは、グレインフリー=必ず心疾患になる、というわけではないということです。
FDAの調査結果でも、「因果関係は確定していない」と明言されています。
多くの犬はグレインフリーフードを食べても健康であり、問題はフード全体の栄養設計や原料の偏りにあります。
たとえば、
• 高品質な動物性タンパク質(鶏・魚・卵など)が十分含まれている
• タウリン・システインなどの必須アミノ酸がバランス良く補われている
• 豆類やイモ類が過剰でない
こうした条件を満たしていれば、グレインフリーでも安全に与えることができます。
タウリン欠乏による症状のサイン
愛犬に以下のような変化が見られた場合は、食事との関係も一度確認してみましょう。
• 運動を嫌がる・疲れやすい
• 呼吸が荒い・咳が増えた
• 元気がなく、ぐったりしている
• 腹部のふくらみ
気になる場合は早めに獣医師に相談し、検査を行うと安心です。


正しいフード選びのポイント
・原料のバランスを見る
→ 肉類が主原料か、豆類やイモ類に偏っていないかを確認。
・タウリンやメチオニンの添加を確認
→ 成分表に「タウリン」や「DL-メチオニン」が記載されていると安心。
・メーカーの栄養保証をチェック
→ AAFCO(米国飼料検査官協会)の基準を満たしているかを確認。
・獣医師・ペットの栄養士に相談
→ 特に心疾患や大型犬の飼い主は、食事管理のプロと一緒に選ぶのが確実です。
現状と今後
FDAの報告以降、多くの大学や研究機関がこのテーマを追跡調査しています。
2023年時点では、
• 原因は単一ではなく、多因子的(原料・アミノ酸バランス・品種差など)
• 豆類を含むすべてのグレインフリーが危険というわけではない
• 適正なタウリン補給で改善するケースもある
という見解に落ち着きつつあります。



つまり「グレインフリーが悪い」のではなく、「栄養設計に偏りがある一部のフードが心疾患を引き起こした可能性がある」というのが現時点での科学的な理解です。
まとめ
グレインフリーフードに関する問題の本質は、穀物を除去すること自体ではなく、豆類の過剰使用や栄養バランスの偏りにあります。
近年注目されている心疾患、特に食事性タウリン欠乏による拡張型心筋症(DCM)は、一部のグレインフリーフードにおいてアミノ酸構成や吸収性に偏りが生じた結果、起こる可能性があると考えられています。
「グレインフリー=危険」というわけではありません。
フードの栄養設計や原料の質が適切であれば、穀物を使用しないレシピでも安全で健康的に与えることができます。
重要なのは「穀物の有無」ではなく、どんな原料を使い、どのように栄養バランスを整えているかという点です。
飼い主としてできることは、
• 原料の内容を確認すること
• タウリンやメチオニンなどのアミノ酸がしっかり含まれているかを見ること
• 信頼できるメーカーを選ぶこと
といった、日々のフード選びの積み重ねです。
もともとグレインフリーフードは、「消化に優しく、体にやさしい」ことを目的として生まれた選択肢です。
だからこそ、「穀物を抜くかどうか」よりも、「何を、どんなバランスで与えるか」が大切だと言えます。
愛犬の健康を守るために、流行やイメージに流されず、科学的な視点でフードを選ぶことを心がけましょう。









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